自然とともに生きる心地よさ。 昔ながらの梅干しづくりで、八女の美しい自然と伝統を守る。

風情漂う里山の風景がいまなお残り、八女茶や伝統工芸品で著名な「八女」。豊かな自然に恵まれたこの場所で、「平島農園」は梅の栽培と梅干しの製造を120年以上にわたって、"つないで"きた。梅、紫蘇、ミネラル豊富な塩のみで漬けた、保存料・化学調味料・着色料などの添加物を一切使用しない梅干しは、昔ながらのどこか懐かしい味わいに心がほっとする。



原点に還る味。

覚えているだろうか。おじいちゃん、おばあちゃんがにぎってくれた、あの梅干しおにぎりの味。日本の伝統食としての梅干しを求める方に向けて、平島農園では、梅の栽培から梅干しの製造、そして販売までを一貫して家族で担う。

平島さん:「最近は、世の中的に減塩ブームですが、減塩するためには何かを入れなくてはいけないんですよね。一般的なスーパーで売られている梅は保存料や、着色料を入れているのがほとんどだと思います。そこが我が家と違うところですね。」

そんな平島農園の梅干しのファンは、ほとんどが個人のお客様。昔今は見かけなくなった、昔ながらの梅干しを全国探し求めるような方が、平島農園に辿り着くという。

平島さん:「『全国の色々な梅干しを食べたのですが、こういう梅干しを探してました。』とか、『母やおばあちゃんが漬けていた梅干しと似ていて懐かしいです。』という言葉が励みになり、嬉しいですね。」

看板商品「七折小梅」は、2011年第6回全国梅干コンクール(4年に1回開催)で1,211点の中から日本一に輝いたこともある。愛媛の七折という地域でできた品種で、梅干しにすると、赤ちゃんのほっぺのようにぷわぷわと柔らかく、口の中で溶けるような食感に仕上がるのが特徴。平島農園の製造する梅干しの約8割を占める。

平島さん:「このあたりでつくられる梅は、酸っぱくて小さい梅が多いですが、七折小梅はまろやかです。増やそうと思っても、苗から実が採れるようになるまで約8年かかる上に、栽培が難しいので、他の農家でもなかなかやってないですね。市場にも出にくいです。」



一家相伝の栽培技術。

梅干しの材料となる梅と紫蘇は、全て自家製。そんな平島農園にある梅の木は、なんと約1,200本。長年の梅栽培で培った経験と、試行錯誤を重ねて生み出された秘伝の技術により、梅は低農薬、紫蘇は無消毒での栽培が可能に。

平島さん:「明治時代に私の曾祖父が梅をつくり始めて、現在も栽培方法はほとんど変わってません。当時から変わったのは、梅を収穫するために、振動機を使うようになったぐらいですね。」

梅の木自体が病気や虫の発生が多いため、一般的に農薬なしでの栽培は極めて困難と言われている。そんな中、平島農園では農薬を通常の約5分の1に抑えながらも、安定した収穫が可能な栽培方法を確立している。

平島さん:「農薬は時期を見極めて、ピンポイントでまいています。あとは、殺菌効果のある竹酢を混ぜることで量を少なくしています。必要な時に必要な分だけまく。これも先祖から伝わる栽培方法です。良い土壌環境を維持するために、マメな草刈りも欠かせないです。除草剤は地下水にも流れてしまうので、機械で地道に草刈りしています。」



たった一晩で全滅することも。

丹精込めて育てた梅の実は、1年かけてじっくりと成長し、収穫を迎える。そんな梅の実の最後の天敵は、梅の効果期に降りる"霜"である。

平島さん:「毎日天気予報を見て、気温を確認しています。霜が降りそうな日は早朝に起きて、畑で梅の枝を燃やして暖かくしています。自動で扇風機を回しておくという手段もあるんですが、万が一一風が当たらないところがあると、その場所は霜が降りてしまうので心配なんですよね。たった一晩で全滅することもあるのでこの時期は本当に気が抜けません。」

収穫まであと一歩のところで霜が降りてしまうと梅の実が落下してしまい、平島さんの努力と苦労が一瞬で水の泡に。そんな繊細な梅の栽培は、とにかく収穫直前まで油断は許されない。



手"塩"にかけて。

約1ヶ月かけて梅の実を収穫すると、息つく間もなく梅干しづくりが始まる。平島農園の梅干しは全て無添加。その分、製造過程においても慎重さが欠かせない。

平島さん:「収穫の時期は、毎朝5時からしています。その日中に収穫したものを水洗いし、塩漬けまでしないと生の梅は傷むんです。スピードも大切ですが、雑菌が入らないように、手をよく洗い、梅を水洗いした後も傷が入っているものが無いかを、一個一個手作業でチェックしています。」

梅干しを漬ける「塩」にもこだわりがある。主役である梅にとって最適な引き立て役となるように数多ある中から厳選された塩を使用する。これも120年伝わる、平島家の伝統である。

平島さん:「使用する塩によってはイガイガする梅干しに仕上がってしまいます。うちでは海水を自然に蒸発させてつくった天日塩を使っていますが、ミネラルを多く含んでいるので、まろやかな味わいに仕上がります。」



お天道様のお陰様。

無添加の梅干しづくりでもう一つ重要な工程は「天日干し」である。雨や台風を避けながら行う必要があるため、計画通りに干せないこともしばしば。現代では機械による乾燥も可能な中、「天日干し」にこだわるのは何故か。

平島さん:「日光に当たると病原菌が死に、栄養分も増えるんですよ。我が家の梅は全て、天日干ししています。ほんと、お天道様ですね。雨が長く続いたら計画通りにいかず大変ですが、それでもやっぱり天日干しは必須です。」

実は、平島農園の正式名称は「太陽梅 平島農園」である。平島さんのお母様が太陽が好きなことからだそうだ。名実ともに、太陽との関係性は切っても切り離せない。

平島さん:「ニコニコよく笑う太陽のような母です。以前、生梅を出荷していた時代も、"太陽の梅干し"という名前をつけて出荷していました。」



継承と進化に挑む。

現在4代目となる平島さんは、もともとは八女を離れ、東京の飲料メーカーで働いていた。後を継ぐことを決めたのは、生梅の生産に加えて、それまでは注力していなかった梅干しの自社販売事業も本格的に始めることとなった、10年前。

平島さん:「私が手伝えることはないかということで戻ってきました。東京から八女に戻ってきた時は、本当にのどかで同じ21世紀かと疑うほどでした(笑)。別荘に年中住んでいる感じでしたね。そこが八女の好きなところでもあるんですが。」

代々受け継がれる栽培技術の習得に加え、自社販売を始めたことにより、先代までは行っていなかったスーパーや百貨店などへの営業にも挑戦する日々。その経験の中で、農家自身で値段をつけて販売していくことの大切さを学んだそうだ。

平島さん:「農家の中には、市場に卸ろして終わりで自分で値段もつけない方々もいます。なんか『もったいないなぁ』と思うんですよね。自分たちで一生懸命つくったものなので、自ら値段をつけることは勿論、お客様にどういう想いで、どのような過程を経てつくったものなのか、やっぱり知っていただきたいですよね。生産自体と同じぐらい大事なことだと思ってます。」



自然とともに生きる心地よさ。

お父様が園主をされていた幼少期に行った親戚総出での収穫作業は、「自然とともに生きる心地よさ」を肌で感じた思い出として、いまでも強く記憶に残っているそうだ。

平島さん:「弁当を持って、山でご飯を食べたのが懐かしいです。これがめっちゃ美味しいんですよ。力仕事をして、青空の下でご飯を食べる。肝心の農作業は覚えていないのですけど、『自然って本当いいなぁ』と思ったことを覚えています。」

幼少期に抱いた想いは、お父様の後を継いだいまも変わらない。日々の畑での小さな発見は、他の職業では味わえない農業ならではの楽しさ、素晴らしさであるという。

平島さん:「冬場に梅畑に出ると、当然、梅には葉っぱも生えていないんですけど、木に触れるとあったかいんですよ。梅の木は話さないけど、年に一度、同じ時期に実を成らせてくれる。こんなに寒い中でも『生きているんだなぁ』ってジーンとくるんですよね。『ありがとう』と、毎年思います。」



八女の美しい自然と伝統を守る。

平島農園の梅干しを食べたいと思うお客様の期待に応えていくことは勿論、八女の美しい自然環境を守っていくために、現在の栽培方法と製法を続けていきたいと、平島さんは話す。

平島さん:「人間も自然の一部なので、自然とともに生きていくためにやっていることは続けたいですね。現在の低農薬の栽培方法、人工添加物は使わない製法は守っていこうと思っています。人間技だけではうまくいかないこともありますが、そういう時は一人間悟りです(笑)。」

時には自然の影響で不作になったり、計画通りに作業が進まなかったりと、農業には想定外なことがつきものである。しかし、思うようにいかない時こそ、自然と寄り添うことを大切にしている平島さん。梅の木と太陽、そして周囲の自然の恩恵に感謝をしながら、"どこか懐かしい"昔ながらの梅干しを、これからも届け続ける。

文・写真:emma. Inc.

※一部農園様ご提供