大きな空が田園風景を包み込むように広がる、筑紫平野の北部。筑後川水系の澄んだ水の恩恵を得ながら、お米・七草・とうもろこしなどを栽培する「久保山農園」は、この地で4世代続く米農家。丁寧に育て上げたお米の稲穂は、ちょうど収穫期を迎え、金色に輝く。県内外の注文も多いという「無農薬米」や「特別栽培米」は、久保山さんご夫婦が我が子のように日々様子を見張りながら、愛情たっぷりに育てる。

150年の歴史、受け継がれる技術。
久保山農園は150年以上の歴史を持つ農業一家。その4代目に生まれた、久保山 貴夫さんは、幼い頃から農業とともに育ってきた。
貴夫さん:「幼稚園ぐらいですかね。その頃から、祖母のリアカーを押すのを手伝ったりしていましたね。両親も農家だったので、『自分も農家になるんだ』『後を継ぐんだ』と幼いながらに心に決めていた感じはありました。高校も農業高校で学んで、そのまま就農しました。父のもとで農家としての仕事や"しきたり"を教わりながら、自分が学んてきたことと照らし合わせて、今日まで仕事をしてきたかたちですね。」
奥様の寬美さんは、貴夫さんと出会った当時、ブライダルの仕事をしていた。文字通り、"まったくの畑違い"の業種に飛び込むのは、覚悟と勇気が必要だったと話す。
寬美さん:「ブライダルの仕事は好きでしたし、辞めるのにはやっぱり勇気がいりましたね。それでも、夫の農業にかける情熱に突き動かされて、夫を支えていくことを決意しました。最初は芽が出ることだけでも『嬉しい!』という感じで、いままで知らなかった世界を知ったような感覚でした。」

手仕事を信じる。
久保山農園の看板商品は、何といってもお米。"ずんぐりむっくりとした、体幹の強そうな稲が理想なのだと語る久保山さん。手塩にかけて育てられたお米は、根強いファンが多い。
貴夫さん:「もちろん時代は進んでいるので、機械に頼るところは頼ります。でも一連の細かな作業、特に草取りなんかは手仕事で丁寧に育てているんです。それはもう、代々受け継がれてきた技術だと思うので。無農薬米・減農薬米をつくっているので、草取りは本当に大変ですね。」
こうして出来上がったお米は、もちもちした食感と粘りが特徴。手間暇がかかっているため大量の生産はできないものの、一つひとつこだわり抜いた自慢のお米だ。

"完熟メロン"のようなとうもろこし。
貴夫さん:「土にはこだわりを持っています。有機質の肥料を使ってミネラルを投入したり、天気によって肥料を与えるタイミングを変えてみたり。いい土をつくることで、作物がストレスなく育ちますし、いい種も残ります。そして、そのいい種がまたいい作物をつくり、とずっと循環していくのですよね。」
豊かな土壌を活かして、余った土地で栽培をはじめたとうもろこしなどの野菜も大人気。昼夜の寒暖差がある土地のため、まるで完熟メロンのように糖度の高いとうもろこしが採れるという。
寬美さん:「今年のとうもろこしはまだですか?といった問い合わせもよくあり、毎年頼んでいただく方もいらっしゃいます。一度食べると他のとうもろこしが食べられなくなるというお声も多く、本当にありがたいです。」

新たな壁、新しい時代へ
そんな順風満帆にも見える久保山農園だが、伝統ある農家であるが故の悩みを抱えていた。
貴夫さん:「150年以上続いている農家だからこそ、次の事業展開を考えなければならないと思ったんです。はじめは『生活ができればそれでいいかな』と思っていたのですが、これからの時代はそうはいかない。次の世代がイキイキと生きていけるように、自分が背中を見せていきたいと思ったんです。」
考え抜いた末、従来の市場にまとめて卸す売り方から飛び込みの直販を行うようになった。そこで輝いたのが、ブライダル業界で培った広報力を持つ奥様だった。
寬美さん:「当時のお仕事でつながった方々で、飲食店の方やシェフがいて。私たちの野菜を見に来たいと言ってくださったんです。そこでお野菜の美味しさを絶賛されて、福岡市のレストランでお米や野菜をメニューに取り入れてもらえるようになりました。その中でも、糖度を活かしたとうもろこしスープは大人気で、私たちの自信に大きく結びつきました。」
そのほかにも、ネット販売用のセット商品をつくったりパッケージデザインを変更したりと、新たな事業展開に踏み切った。いまでは地元のみならず、全国から注文が後をたたない。

伝統を守る。未来をつくる。
歴史ある農家だからこそ、自分たちにしかできないことがあると語る久保山さん。
貴夫さん:「四代までこうやって農業を続けてこられたのは先祖のおかげ。先祖たちが一生懸命農業と向き合ってきたからこそ、今自分たちが生かされているんだと思います。自家採取でとれた種は、久保山農園の歴史そのもの。伝統は大切に守りつつ、時代に合わせて変化していくことが重要だと考えています。古い歴史がある自分たちだからこそできることがそこになると思うんです。」
寬美さん:「おいしい作物を手間暇かけて、愛情込めてつくる夫は職人だなと感じています。だからその作物をいろんな人に発信して、届けるのが私の仕事なのだなと。福岡県のみならず、全国の方々にも食べていただけるようにやっていけたらと思っています。」
いい作物を育てることに強い情熱を持っている久保山さんと、持ち前のコミュニケーション力でその作物をお客様へ直接届けている奥様。150年以上紡がれた伝統が、ふたりの手で次の時代へと受け継がれようとしている。
