福岡市内や玄界灘を一望できる霊峰、雷山の麓にある「糸島オーガニックファーム」。春から夏にかけては、よもぎ・どくだみ・セージ・タイム・レモングラスなどの5種類のハーブを。秋から冬にかけてはさつま芋・生姜・菊芋などといった、現代人の健康づくりに役立つ農作物を中心に栽培する。栽培期間中には農薬・化学肥料などを一切使用しておらず、「食品残さ」という食べ残しや茶がらを再利用した肥料を用いて、人の健康と自然に配慮した栽培を行う。

耕作放棄地の課題に挑む。
有機栽培の中でも厳しい基準をクリアした農園に与えられる「有機JAS認定」を受けている糸島オーガニックファーム。以前農家をされていた方から譲り受けたというその土地は、元々は耕作放棄地であったという。土壌の再生には時間も手間もかかる耕作放棄地を敢えて選択した理由には、日本全体の農業の在り方に対する問題意識があった。
前田さん:「耕作放棄地は、雑草が生い茂り、まず害虫が発生しやすくなります。獣も集まりやすくなりますので、畑の作物を食い荒らします。その場所だけでなく、周囲の農家さんにまで被害がわたり、その地域の農業全体へ悪影響が出てしまうということですね。自分たちだけの問題ではないということです。日本各地で耕作放棄地が増えていますから、何とか地域の役に立ちたいという思いがありました。」

耕作放棄地で有機ハーブを栽培する理由。
糸島オーガニックファームでは、有機ハーブの栽培を通じて、地域の雇用促進にも貢献する。ハーブは道路脇でも元気に育つほど生命力が強く、土壌の良し悪しに比較的左右されにくい。当然、有機栽培になると難易度は上がるものの、有機野菜などと比べると作業を標準化しやすい。未経験や経験の少ないスタッフにも任せやすいということである。事実、糸島オーガニックファームのスタッフ数は年々増加しているそうだ。
品種の選択においても、"地域に根差す"という思想は一貫していた。より多くの地域の方が長く働けるような場にしていきたいという考えが背景にあった。

先人の知恵に学ぶ。自分の健康を自らケアする時代をもう一度。
よもぎやどくだみといったハーブは、日本で古くから医療用の薬草として止血や抗菌の際に、重宝されてきた。医療の発達や生活水準が向上したいまも、デトックスや美容効果、安眠作用など、現代人が抱える病の諸症状緩和に欠かせない。
前田さん:「昔は、よもぎやどくだみを山から採ってくる仕事があったほど需要が高かったのですが、現在ではあまり馴染みのないものとなってしまいました。西洋医学的な対処療法も大事ではありますが、自分の健康は自分でケアするということがもっと意識されても良いのではないかと。日本人の体に合った健康づくりのために、"日本の古来種"の日常的な利用に原点回帰するような流れをつくっていきたいです。」
栽培されたハーブは、健康茶や化粧品を販売する専門店への卸売も行っているそうだ。エビデンス云々ではなく、先人が自らの心身を守ってきたというその"知恵"を日々の生活に活かすということにもう一度スポットライトを当てていきたい。原点を改めて見つめ直し、純粋に人びとの健康を守っていきたいという想いがそこにあった。

お客様自身で、安心安全な作物を選択できる世の中に。
糸島オーガニックファームでは、栽培期間中、農薬・化学肥料を一切使わず、「食品残さを堆肥に活用し、土壌微生物を活性化させている」と言われる土壌づくりが基礎にある。今後は、引き続き安心安全な作物をお客様へ提供していくということに加え、お客様自身の"農業"や"食の安全性"に対する共通理解や関心を高めていきたいという。
前田さん:「スーパーで有機JASのシールが貼られたものと無農薬のシールが貼られたものがあったときに、無農薬を選ぶ方が圧倒的に多かったりします。お客様がより安心安全な選択をし、自分の健康を守っていただけるよう、有機JASのことだけでなく、"農業"や"食の安全性"に対する理解が広まっていくと嬉しく思います。」

「うちから独立していく人を育てたい。」
糸島オーガニックファームでは今後、農業だけでなく日本の未来のために、耕作放棄地活用の取り組みに加え、農業の道を志す方の受け入れ、育成に注力していく方針である。
前田さん:「耕作放棄地の問題をより多くの方に知っていただくために、うちで学び、独立して地方の土地の再生に取り組むような人を増やしていきたいです。有機ハーブの栽培は本当にダイナミックで面白いですし、糸島オーガニックファームでは自社で販売まで手掛けているので、商流を一貫して学ぶことができます。また、会社として運営していますので、安心して学べる環境があると思います。」
目の前に立ちはだかるのは、とてつもなく複雑で大きな社会課題。それだけに、個人や小規模な事業者では限界がある。その強い意志を受け継ぐ後進を育てながら、今後も強い信念をもって、消費者や社会を巻き込み、大きな"渦"となり続ける。
