そこは可也山の麓、志摩稲留。花農家を営み3世代目になる「New Sense Flower 吉村」の広大なハウスで栽培される品種の数はまさに国内トップクラス。その一流っぷりは"数"だけではない。ハウスの温度や日照時間など様々な諸条件の微調整によって、一般的な旬の期間よりも遥かに長い期間にわたって市場に花を卸し続けている。彼らの"強い"花づくりを学びに、全国から花農家が見学に訪れるという。また、その抜群の花持ちの良さは、地域の花屋さんからの評価も高い。

"美しく、強い"花。
「四季を追うのが我々の仕事」と話す吉村さん。一つの季節で扱う品種の数は3桁にも上る。どこよりも早く、そして、できるだけ長く扱い続けるために、ハウス環境のきめ細やかな管理を徹底。一般的な花農家が2週間しか出せない品種も、吉村さんの手に掛かれば、なんと8週間は扱うことが可能になるそうだ。
吉村学さん(2代目代表):「季節の初めには『吉村さんのところもうこの品種出よるやん』と言われ、季節の終わり時にも『吉村さんまだこの品種出しとうと?!』とよく驚かれます。球根自体やハウスの温度調整など、様々な工夫を凝らしながら、常に質の高い状態に維持できるよう心がけています。」

「100本に1本」
New Sense Flowerの扱う幅広い品種の中には、自社で育種した世界で唯一のオリジナル品種も数多くある。「継続は力なり。コロコロと品種を変えるのではなく、計画性が大事。」と話す吉村さん。まさに、オリジナル品種の開発は、幾度もの失敗と反省の連続によって生まれた賜物であった。
吉村学さん:「オリジナル品種は、100本試して1本できれば良い方です。商品としてお客様に喜んでいただける品質まで持っていくことが本当に難しく、4, 5年かけて出荷できるレベルのものができるかどうかの世界です。メインで栽培しているダリアに関しては、10年かけて自分で育種しました。」

「誰かに喜んでもらいたい」の連鎖
「長く日持ちのする強い花を、幅広い品種で取り揃える」と一言で言っても、その実現のためには想像を絶する大変な苦労がある。そこには「誰かに喜んでもらいたい」という一心が原動力になっていると吉村さんは話す。市場で買い付ける花屋さん、その花屋さんで買う一般のお客様、そしてそのお客様が花を受け取る方、と..."喜びの連鎖"はつながっていく。その起点となる花農家の責任とやりがいは大きいと吉村さんは語る。
吉村学さん:「お客様は花屋を訪れた時、色んな花があった方が嬉しいし、選ぶのも楽しいですよね。同時に、花屋さんも、幅広い品種があった方が、お客様の要望通りに花束がつくりやすいので、喜んでいただけます。花屋さんの望むものをうちでつくり、お客様の要望に何でも対応できることを大事にしています。」
先代から代表を任され25年間、僅かでも空いた時間があると、卸先の花屋さんへ顔を出すことを欠かさないという。品種ごとの売れ行きやオリジナル品種に対する感想を聴いたり、最新のトレンドを仕入れたりと、常に業界の先頭を走り続けられるよう、旬の先取りは欠かさない。
吉村学さん:「親を継いだ後、まずは福岡だけでなく、佐賀や熊本などの花屋さんへ挨拶回りをしました。それは今も欠かしていません。生の声を聞き、要望をしっかり吸収し、"うちだったらこうできるよ"と提案もします。当たり前のことをコツコツと続けているだけですが、おかげさまで安心して信頼いただける関係性を築けていると感じています。」

親子二人三脚。"継承と革新"で、成長を続ける。
2023年からは、学さんの長男・明峰さんが新代表となり、New Sense Flowerの看板を背負う。最近ではマルシェなどに出店することもあり、その主催者や来店するお客様の年代も考慮し、「任せるタイミングは今」と判断したそう。
吉村学さん:「仕事を通じて関わる相手も、私より若い世代が増えてきています。若い世代の方が、新しい発想も出てくるし、"これがしたい!"というエネルギーも強いので。自分がまだ働けるうちだと、息子も学びやすいと思ってこのタイミングにしました。」

父・学さんが花づくりに汗を流す姿を、幼少期から近くで見てきた明峰さん。幼い頃は、特に花に興味があったわけではなかったそうだ。小学生になったタイミングで両親のお手伝いをしながら花と触れ合う中で、徐々に花や農業に興味が出始め、高校に進学した頃には「将来の夢は、父の後を継ぎ、花農家になること」と、家族や友人にも胸を張って言えるようになったと話す。
吉村明峰さん(3代目新代表):「仕事を手伝うのが嫌な時期もあり、本当に自分がしたい事はなんだろう?と何度も問いかけながら葛藤する日々もありました。でも、自分で一度決めたことは絶対に曲げたくなくて。今では花を通して多くの人に感動を届けられるこの花農家という仕事に魅了されている自分がいて、父のように技術が高く、市場の関係者や花屋さんから信頼される花農家になりたいと思っています。」
取材の最後には、新代表としての今後の目標を伺った。
吉村明峰さん:「父の積み上げてきたブランドをさらに高め、広げていくと共に、自分の色を世に出していきたいと思っています。自分なりのアイデアをプラスして、自社オリジナル商品を増やしていきたいです。そして、父に甘えないように自分なりの覚悟を決めてやろうと思っています。」

花が花屋に並ぶまで
人から花を貰ったり、花屋に並ぶ美しい花を眺めるだけで気分が高揚する方も多いのではないだろうか。花が花屋に並ぶまでの過程にある、生産者の想いや努力を知ったいま、次に花屋に足を運ぶときはきっと、花を見たときのその感動や喜びがより大きくなっているだろう。
